phanlife
[00] prologue

prologue

 昔むかし、あるところに、スティーリアという世界で一番強いと言われる魔術師がいました。彼と戦って勝てる人は、本当に居なかったのです。
 しかしスティーリアは、いろいろな国のお宝を盗む、大怪盗でした。そんな彼を、人は嫉んだり、哂ったりしたのです。
 彼の目的を、何一つ知りもしないで。


 ■phanlife


 夜半を過ぎた、城の廊下はしんと静まっていた。
 自分の背丈ほどの窓から見えるのは、暗闇で輝く欠けた月。廊下に掛けられた絵画は、廊下の魔法の明かりにうっすらと照らし出されている。
 自分以外に、動くものは一つもない。見回りの警備兵にも、会うわけがなかった。今自分は、見回りの警備兵としてここに居るのだ。
「……遂に、か」
 最強の魔術師と言われた、童話にもなって伝わる大怪盗。それがまた、この世に蘇るのだ。
 追われる身となる自分に、このように独りごちることが許されるのか。それは知るよしもない。
 ふと立ち止まって、窓を見上げた。
 例えどこに居ても、月は自分を追いかけている。
(名前は、意味は、目的は?)
 ずっと昔の質問が、ふっと浮かんだ。今思えば、それは他人にではなく、自分への問い掛けだった。月に束縛された中で、本当の自分を見つけたい一心での。

 ほどなくして、他の扉より、装飾が一層煌びやかな扉が見えた。さり気なく辺りを見回して、誰も居ないことを確認する。
 足早に扉へ向かい、その真ん中にある爪ほどの隙間を、すっと指でなぞった。
「"喚綴(コルレット)"」
 音もなく、隙間に一つの紙が現れた。それがしっかり挾間っているのを見てとると、すぐにその場を立ち去る。
 ――ハマドルァーデス公国を治めし、親愛なるレイヅラド公。翌の満月が昇った、日を跨ぐ頃、「闇夜の盃」を頂戴致します。怪盗スティーリア。
 そうして自分が書いた文を思い起こし、上出来だと、小さく、小さな笑みを浮かべた。

 ◇

 ハマドルァーデス公国の中央部にあるのは、ハマドルァーデス中央演舞場。夕刻の閉場時間まで賑わう、国の観光名所だ。
 さまざまな行事を開くここには、国宝も展示されている。
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