櫻~再会の願い~
理由
卒業式の1週間前のあの日。
「絢音のピアノの弾き方ってさ、なんか優しいんだよね」
「どういう意味?」
演奏する手を止めて、膝の上にそっと置く。
いつものように放課後の第2音楽室を借りて、ピアノの練習をしていた私とそれを聞いてくれている千紗都。
私たちにとっては当たり前の放課後の光景。
ただ、今日は千紗都の呟いたその言葉が心に突き刺さった。
「優しすぎるっていうかさ……もうちょっと力強く弾いてもいいんじゃない?」
――絢音さん、この曲は全体的にもう少し強く弾いた方が良いと思うわ
昨日のレッスンでの先生の一言が頭の中で響いた。
レッスンの後、強く弾こうと躍起になって練習したけれど、どこか自分らしくないと思ってしまった。
体調がそんなに良くなかったのに無理やり弾いていたから、気持ちもだんだん沈んでいって……。
そんなことを思い出した。