櫻~再会の願い~
親友
私、時近 絢音(ときちか あやね)と岡谷 千紗都(おかや ちさと)は並木(なみき)中学校の3年生。
千紗都とは小学校の頃からの親友だった。
「絢音、絢音はどうしてピアニストになりたいの?」
将来の夢という作文が課題で出た日の帰り道。
千紗都が夕日を背にしながら、そう話しかけてきた。
「うーん、ピアノ教室の発表会でね、人前でピアノを弾くのってすごく緊張するんだけど、それ以上に私らしく曲を弾いて、それが聴いてる人の心に響くといいなって思ったの。」
静まり返ったホール。
緊張に押しつぶされそうになる時もある。
だけど。
演奏を始めれば、そこは私だけのステージ。
両手の指が奏でる旋律がホールに響き渡る。
それはまるで、音のひとつひとつが意志を持っているようで。
弾ききったあとにおとずれる、演奏した者にしか分からない達成感。
沸き起こる拍手。
何度経験しても心地よい、最高の瞬間。
発表会の光景を思い出し、満たされた気分になる私。