会社で恋しちゃダメですか?


「こうなるって分かってたから、手をふれちゃいけないんだ。我慢できなくなる」
「部長?」
「池山さんを見てると、どうもちょっかい出したくなって」
山科が笑う。


山科の胸に頬をつけて、彼の鼓動を感じた。


部長も一緒。
すごくドキドキしてる。


あおいの姿が頭をよぎった。こんな風に二人は過ごしていたんだと思うと、幸せに小さな引っ掻き傷ができる。


「部長」
「なに?」
園子の頭に頬をつけていた山科が、優しく訊ね返す。


「これは、部長が結婚して会社を継ぐまでの、限られた時間の関係なんですよね」


山科が黙った。


「あおいさんとご結婚されるんですか? それとも、お見合いされている誰かと」
「……」
「ネットの記事にあおいさんと結婚する可能性があるって書いてありました。たしかに彼女と結婚すれば、TSUBAKI化粧品にプラスになるかもしれません。部長もあおいさんのことを大事にされてるみたいだし、そうなのかなって」


山科が園子の身体を離し、顔を見つめる。


「ずっと、そんな心配をしてたのか?」


園子はうつむいた。


山科が園子の額にそっと唇をつける。


「心配するな。なんとかする」
「そうなんですか?」
「俺は君が好きでたまらないんだ。こうやって腕の中に入れてしまったら、もう他の人なんて考えられない」
「あおいさんのことが大事って」
園子が言うと、山科が園子の頭を大きな手でなて、指で髪をすく。


「大事だよ。大切な人だけれど、それは一時期を一緒にすごした記憶があるから。彼女といがみ合ったりしたくないってこと」


< 142 / 178 >

この作品をシェア

pagetop