会社で恋しちゃダメですか?



「部長が社長になっちゃうなんてなあ」
紀子が唇を尖らす。


「でも親の七光りだけじゃあないもん。部長、あ、ちがった、社長がこの会社を救ってくれたんだし」
紀子はデスクに顎をのっけて、寂しさを滲ませる。「営業部からいなくなっちゃうの、やだなあ。わたし、ファンなのに」


コンピュータの画面に向かっていた園子が「ファンだったの?」と驚いた声をあげた。


あれから一ヶ月。
なんとか株主総会に案件を間に合わせた。
竹永社長は会長に退き、山科が代表取締役社長となることが、承認されたのだ。


でも二年限定の社長業だ。その後はTSUBAKIの本社へ行くことが、内々に決まっている。


「園子はいいなあ。プライベートでも社長と一緒。ねえ、結婚するの?」
紀子は無邪気に聞いてくる。


「さあ」
園子は返事をごまかした。


山科からは何も言われていない。だから「結婚します」とは言えないのだ。


ランチ終わりの、のんびりした時間。営業は出払っていて、事務方が何人か残るのみだ。


すると突然、電話が鳴りだした。


「はい、竹永コスメティックスでございます」
園子が電話に出る。


「『ミューズ』の編集を担当しております、笹原ともうしますが、取材を申し込みたいのですが」
園子は驚いた。勤めてから今日まで、そんな問い合わせ、一度もなかったからだ。


「では、広報担当にお回しいたしますので、しばらくお待ちください」
保留にする。


すると再び電話がなった。紀子が取る。園子が広報部に回している間に、紀子も電話を保留にした。


「取材だって!?」
目をまん丸くして、紀子が言う。


「え? どうしたんだろう突然」
園子が言うやいなや、次の電話がなる。


またたくまに、たくさんの電話が鳴り始めた。



< 170 / 178 >

この作品をシェア

pagetop