会社で恋しちゃダメですか?


「大丈夫?」
山科があわてて駆け寄って来た。


「す、すみませんっ」
園子は謝りながら、自分の脚を見る。ズボンが脱げて、脚に絡まってしまっていた。おまけにパジャマの上がめくれて、ショーツがむき出しだ。


園子はカッと顔が熱くなる。慌ててパジャマを引っ張った。それから山科を恐る恐る見ると……。


ああ、やっぱり。


山科は目をまんまるくして、それから火がついたように笑い出した。


「だから、ズボンは履かなくてもいいって言ったのに」
「部長、笑わないでください。ひどい」
「ごめんごめん。でも、コントを見てるみたいで、最高に面白い」
「ひどい……です」


園子はズボンを引っ張り上げようとしたが、脚に絡まってうまく立ち上がれない。心拍が上昇してきて、恥ずかしさは最高潮だ。涙がにじんでくる。


「ほら、おいで」
山科がひょいっと、園子を持ち上げた。思わず山科の首に、ぎゅっとつかまる。


シトラスの香り。


そのまま抱えて、ソファへと連れて行かれた。そっと降ろされると「怪我してない?」と訊ねる。園子は、先ほど頭をなでられたときとおんなじように、胸の奥がゆらゆらと揺れている感覚におそわれた。


「食器、割れてませんか?」
園子は、波のように繰り返し来るその感覚を押しとどめながら、平静を装ってそう訊ねた。


「大丈夫だよ」
「すいません、わたし、ほんと間抜けで」
「おもしろいけど、間抜けじゃあないよ。一生懸命だし、仕事もできる」
オフィスでの山科を思わせる、頼もしい言い方。
仕事に没頭させてくれる、尊敬できる上司の姿。


園子は思わず「無理だなんて、言うのやめませんか?」と言った。

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