会社で恋しちゃダメですか?
山科が園子の隣に座る。柔らかい座面が、ふわんと落ち込んだ。
「秘密で動かなくちゃいけない」
「わかってます」
「残業だって増える」
「大丈夫です」
山科が身体を園子のほうに向ける。
「俺じゃあ、竹永コスメティックスを救えないかもしれないよ」
園子は山科の瞳を見返した。
「もともと、消える運命ですよね。怖いものはないです。わたしは、部長と、本当の仕事がしたいです」
山科の肩からふっと力が抜ける。髪をかきあげ、背もたれに首を預けた。上を見上げて、しばらく黙る。
それから「わかった。やってみよう」と言った。
天井を見つめたまま、微笑む。
そこにピンポーンとチャイムの鳴る音。
「クリーニングかな?」
山科がソファから立ち上がると、園子の右腕からほのかな体温が消えて行く。
これからのことを考えると不安だけれど、黙ってクビにされるよりもまし。
それに……。
園子は山科が最後微笑んだ、その表情を思い浮かべる。
部長と仕事がしたい。
一緒の方向を見ていたい。
そんな気持ちにさせられる上司は、初めてだった。