会社で恋しちゃダメですか?


山科と二人で、しばらく無言で仕事をする。以前は残業が嫌いだった。とにかく古いビルなので、ちょっとした暗闇が大きく見える。そんなはずはないのに、人がいるような気がしたりもする。怖いのだ。でも今は、この時間がとても楽しい。


「もうすぐ、山本くん帰ってきますね。お湯湧かしておきます」
園子は椅子を立ちあがって、給湯室へと向かった。


廊下は怖い。どんなに蛍光灯がついていても、足がすくむ。グレーの壁はまたたく蛍光灯の下で黒ずみ、無音の廊下に自分の足音が響く。園子は自然と早足になった。


給湯室に入ると、慌てて電気を入れる。ポットに水を入れようとしたが、その前にトイレに行こうと思い立った。これもまた勇気がいる行為。


給湯室を出て、右手のトイレに向かった。


あれ? 電気がついてる。
誰かが消し忘れたのかな。


園子は最初から明るいことにほっとしながら、トイレに入った。三つならぶ個室の一番手前に、誰かが入っている。


そうか、他のフロアから、借りに来たんだ。


園子は深く考えもせず、真ん中の個室を使用した。
用をすませて、個室を出る。大きな鏡が貼られている洗面所で手を洗って、顔をあげた。


鏡に映っていた。
使用中の個室の上から、誰かの……頭が……。


驚愕。
恐怖。


頭は額のあたりから上だけ見える。
その頭が静かに、引っ込んだ。


園子は、震える手で水を止めると、気づかぬ振りをしてトイレを出た。

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