全て捨てて見せて
素敵だったであろう彼ら
刑事物のドラマを見ると、彼もこうだったのかしらとドキドキするのだ。
こんな立派な仕事をしていた人が、今、私を愛してくれているのだと。
私まで偉くなった気分にさえなる。
彼が現役の頃を知りもしないのだけど、恐らく額の大きな傷は、事件で受けたものだろうと思う。背中にもたくさんの傷がある。
その傷にキスするのが好きなのだ。私。

彼が退官して数年。私と彼は20近くも歳が離れている。職場の大先輩の退職祝の会で初めて知りあった。大先輩の兄様が警察署長だったので、飲み会にも警察関係者が少なくなかったのだ。
今思えば、初めて目があった瞬間の、彼の眼差し。少し瞳を見開いて真っ直ぐに見つめ、あわてて下を向いた様子が恋の始まりだったのであろう。
彼が私に恋をした瞬間。
60歳を過ぎている彼の、恋をした瞬間。
私を見初めた瞬間。
私が彼を男性として見るのには、それから一年の時を要したのだけど。
今では、私。彼に恋をしてる…とまではいかないけども、彼が愛しいと思える。

それは、先に付き合っていた私と同じ歳の教師を越える思いなのかもしれないと、最近きづいたような気がする。
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