腹黒教師の甘い策略



「でもさー、」

暗い気持ちを振り払うかのように、
チューハイを煽る私に、ぼそっと呟いた香織。


「なに?」


「あんたから、その谷崎ってフェロモン教師の
話を聞く限りは、あんたが一番苦手なタイプじゃない?」



……苦手、というか、大嫌いの間違いですよ。
香織さん。


真面目で誠実な人がタイプの私には、
谷崎みたいな、いつも笑顔でなに考えてるかわからなくて、ああいういい加減な男は天敵と言っていいほど嫌い。


「本当、あの時の私はどうかしてたんだよ……。」


本当にどうかしてた。

よりによって、天敵である谷崎に弱味まで握られて、あいつとキスまでしちゃうなんて。

あの時の私は浮気されたことの衝撃と、
谷崎に見られた恥ずかしさと、
生徒に負けた悔しさで、もう何がなんだかわからなかった。

「そう!
谷崎との浮気なんて一時の気の迷い!
ちょっと間違っちゃっただけ!」


ダンっと、もう空になったグラスを机に
勢いよく置く。


「……なんて言うかさー、」

「何?」

まだなにか言いたげな香織をきっと睨むと、
香織は“別に?”とにやにやしながら言った。



……なに、なにが言いたいの。


うそ。わかってる。
気の迷いだった、なんて、自分に言い聞かせてるようにしか聞こえないってことは。


……でも、悔しい。認めたくないの。
谷崎に馬鹿にされたのが。
谷崎にキスをされたのが。

「それに、何が一番腹が立つかって……」




隠れるとき、谷崎に後ろから抱き締められて、
耳元に谷崎の息使いを感じて、
キスされて、


……その息使いとキスに、ちょっとでも
ときめいちゃった自分に一番腹が立つ。


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