カムフラージュの恋人
・・・別に私は、雅彦が作ってくれたゴマサブレが食べたいから、ここに居残ってるんじゃない。
こいつが強引に「送る」と申し出てくれたからでも・・・なくて。
ただ、あの時の雅彦の顔とか声とか態度が、「きよいは俺んだ!」って主張してるような気がして。

すごく・・・嬉しかったし。

途端にカーッと火照った頬をごまかすように、サブレにかじりついたとき、目の前に影ができた。
と思ったら、雅彦と同じ、パティシエの制服を着た、素晴らしく美形なハンサムさんが、ニッコリ私に微笑んでいた。

「キミがきよいちゃんか」と言う声まで、鳩尾にズンと響くようなセクシーボイス!
きっとこの人が、雅彦の言ってた、ヤツが尊敬する葵さんに違いない!

「俺、元木葵っていいます」
「やっぱり」
「雅彦から聞いてた?」
「少しだけ。あいつがすごく尊敬してる人で、葵さんとご一緒にお仕事できて嬉しいとか、生きててよかったとか言ってました」と私が言うと、葵さんは心底ウケたようで、ゲラゲラ笑っている。
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