『特別』になりたくて

#02芽生えた気持ち

「わっ……混んでる」

 
地下にある食堂に来ると夕食の時間帯という事もありかなり混み合っていた。
これじゃあ買うだけで精一杯かな。
チラリと並べられた机や椅子を見渡すがどこも場所取りされていたりで空いてる席は見当たらない。

仕方ない、今日は適当にお握りでも食べる事にしよう。
そう決めて列をなす売り場に並び、二、三個お握りを手に取った。


「二一六円になります」

 
売り子さんにピッタリお金を払うと早々に食堂を後にする。
今日は自室で食べようかなーなんて考えながらきた道を引き返していると。


「伊波さん?」


聞き覚えのある声で呼ばれて振り向く。
すると私と同じように食料を抱えた会長がこちらを見ていた。


「片桐会長……」
「急に呼び止めてごめんね。一人なの珍しいと思ったから」


呼び止められて多少驚いたけど、すぐにその理由がわかる。
もしかして瑞姫に用があったのかな? なんて。
思いながらも口には出さず、会話を続ける。


「そうですかね……?」


そう言って、軽くお辞儀をすると、そのまま部屋の方へ行こうとしてーー。


「あー! 会長がナンパしてるー」


どこからか聞こえてきた声。集まる視線。
思い掛けない自体に立ち尽くしていると……グイッと腕を引かれた。


「ボサッとしてないで走るよ!」
「ええっ」


腕を引いたのは会長で、人だかりを潜り抜けるように食堂の外へと走りだす。
私はといえばそれについて行くのが精一杯で余計なことを考える暇もなかった。
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