ずっと隣で・・・
私たちはしばらくの間、ホームのベンチに座っていた。
その間、水野君は私の涙の理由を何も聞かずただ横に座っていてくれた。
不思議な気持ちだった。
失恋した私の慰めてくれているのがまさか元彼だとは・・・

どのくらい経っただろう・・・
再び東京行きの新幹線の到着を知らせるアナウンスが入る。

「水野君・・・新幹線来るけど・・・」
でも、水野君は立ち上がろうとはしなかった。
そして彼は、スマホを取り出し電話をかけ始めた。

「あー。そう・・・俺。やっぱ仕事が片付きそうにないから
 今回はやめとくよ。・・・・うん・・・うん。ごめん・・じゃあ・・」
水野君は電話を切った。
「今の電話って・・もしかして予定をキャンセルしたとか・・・」
水野君は私の話を聞いていないかのように立ち上がると
自分のカバンと私のボストンバッグを片手で持った。
「水野君?」

「行くよ」
そう言うと私の手をまた掴んでエスカレーターの方へと歩こうとしていた。
何が何だかわからない。
「ねー。何処行くの?あれって・・・下りのエスカレーターだよね。」
すると彼が足を止めた。
「帰るよ・・・」
「え?帰るって・・」
「・・・俺のマンション」
俺のマンションって・・・
何を考えてるのか全く分からない。
いくら元彼だと言ってもいきなりマンションとか普通あり得ないでしょ。
あたふたしている私を見た彼は
「ここで一晩過ごす訳にもいかないだろ・・・さすがにここまできて
はい、さようならは・・・話もしたいし」
だったらホテルかどこかに泊るからいいよ。
そう言おうと思うのだけれど
どうしてなのかそれがなかなか言葉に出せずにいた。
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