ターゲット、怪盗X
1章 怪盗X

標的01 辞令

「辞令、ですか…?」

「あぁ。君の最近の頑張りは耳に挟んでいるよ。そこで、君にはこの人物を担当してもらいたいんだ」

「?…っ、これって、怪盗X…!?」



ある日、湯川幸男管理官に呼ばれた夕香里は怯えながら扉を開いた。自分は気づかない内に何かをやらかしてしまったのだろうか。お咎めの覚悟をしていた夕香里は、思わぬ辞令に目を丸くした。しかも、お咎めどころか褒められてしまった。ドキドキと落ち着かない胸を抑え、次の言葉を待つ。



「あぁ、ついてくれるな?」

「はい!勿論です!!」

「ありがとう。あぁそれと、この任はもう一人担当をつけることになっていてね。そろそろ来るはずなんだが…」



首を傾げる湯川に、夕香里は目をパチクリと瞬かせる。すっかり忘れていたが、これだけ有名な怪盗を相手にするのだ。パートナーやチームがつくのは当たり前だろう。一体どんな人なのだろう。夕香里自身がどちらかと言えば新米刑事なので、恐らくもう一人の方は夕香里よりも熟練の…先輩や上司がつくことになるはずだ。
厳しそうな人じゃありませんように。とりあえず今願うことは、それだけだった。


コンコン…


「失礼します」

「入りたまえ」

「はい」



ギィ…と言う音と共に、重々しいドアを開いて誰かが入ってくる。恐る恐る、夕香里はそちらに目をやった。だが、そこにいたのは恐ろしい先輩や上司ではなく、寧ろ自分の尊敬する上司…幸村陸だった。
夕香里はドキドキと胸の鼓動が早くなるのを感じながら、素早く身体の向きを湯川に戻した。それからは身動き一つせず、ずっと湯川を見つめているばかり。緊張していることを隣の上司に悟られないように。
結局、幸村が来てからの話は全く耳に入らないまま、夕香里は幸村と共に部屋を後にすることになった。扉を締め、深く溜め息を吐く。



「そんなに溜め息吐いてると、幸せが逃げてしまうよ?」

「えっ?も…、問題ありませんよ!!だって今、怪盗Xの担当にさせてもらった上に、湯川先輩と一緒に仕事ができるって、最高の幸せ持ってますし!!」



あああ、何言ってるの私っ!
心の中で悲痛な叫びを上げる夕香里だが、言ってしまったものはもう遅い。赤くなる顔を見られないよう俯いていると、ふいに頭に温かくて大きな何かが乗る。暫くしてそれが幸村の手だと気づくと、夕香里の顔は更に熱くなった。



「俺も。花山と二人で仕事ができて嬉しいよ。頑張ろうね」

「はっ、はい!」



あぁ、神様。私の心臓は破裂してしまいそうです。
こっそり、心の中でそう告げた。
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