キミじゃなきゃダメなんだ



「....ありがとう、ございました」



荷物をまとめ終わって、最後になんとかお礼を言う。


...最後まで、先輩の顔は見れなかった。


教科書を胸に抱え直すと、すぐにその場から立ち去ろうとする。



だけど先輩の静かな声が、私の足を止めた。




「...なんで、避けるの?」




....ドキリとして、教科書をぎゅっと抱える。

話しかけられてしまった手前、逃げるわけにもいかない。

でも、振り返れない。



心臓の鼓動が速くなるのを感じながら、私は小さく口を開いた。



「....せ、先輩を、これ以上傷つけたくなかったから....」

「...傷ついてないよ、僕」



嘘だ。

私は自分が馬鹿だとは思うけど、ひとの感情の機微に疎いとは思わない。

自分がしでかしたことで、相手がどう思ったかくらい、わかる。


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