白いジャージリターンズ~先生と私と空~


次の朝、目覚めるとやっぱりまた気持ちが落ち込んでいた。
そう簡単に元気になれるわけじゃない。
少しずつ少しずつでいいんだ。

「おはよ~空!」

「いや~ああああああ」


体を起こそうと空を抱き抱えると、大きな声を出す。
いつものこと。

急に変わるわけなんかない。
そう思ってはいるけど、ガッカリしている自分がいた。

高田コーチの言葉を思い出す。


誰が産んだんですか?


そう。
私が産んだ。
私の子供。

「空、あともう少しでギプス取れるね!取れたらいっぱい友達と遊べるね」

「またダメになるかもしれないもん」


やっぱり、空はギプスが長引いたことがショックだったんだね。
この日まで、って頑張ってたのに。


私は嫌がる空を思いきり抱き締めた。

「そうだよね。もういやだよね。つらいね、悲しいよね」

嫌がられてもいい。
思いきり抱きしめて、以前のように頬と頬をくっつけた。

空は嫌がっている様子なのに、逃げなかった。



「朝ご飯にしよっか」

「おにぎりがいい」

「わかったよ」



空が変わったんじゃない。
私が変わったんだ。
いつの間にかびくびくして、空に遠慮して……


ピピピピ

スマホが鳴った。

「コーチ来てくれるの?」

空は、スマホの画面をのぞき込む。

「違うよ。パパだよ」

先生からのおはようメールを見ていると、電話が鳴った。


高田コーチだった。


「もしもし」

『おはようございます。高田です』


ほっとする。
涙が出そうになる。


「昨日はありがとうございました」

『いえいえ。今日の空はどうですか?』

「今、おにぎり食べてます。いい感じです」


空は、口いっぱいにおにぎりをほおばって、ギプスをおはしでたいこのように叩いている。

『良かった~!今日、良かったら練習見に来ませんか』

「空に聞いてみます。もし、行きたいって言ったら見に行きます」

『そうですね。ギプス取れてからの方がいいかなぁ。どうかな』

「空に今聞いちゃうと、コーチ来てって言うと思うんで、あとで聞いてみますね」


空は、リズムよくおはしを動かして、ご機嫌に食べていて、それだけでも久しぶりだなって嬉しくなる。


『別に行きますけどね。はは。でも、あんまり行くとね。明後日、病院一緒に行きましょうか』

「いえいえ、そんなのダメです。そこまで甘えれないです!!」

『明後日は、夕方の練習だけなので、朝は暇なんですよ。困ったら言ってください』



いつでも頼める、何かあれば頼れる……それがとても心の支えになっていた。


「ほんとにありがとうございます」

『とにかく、無理しちゃダメです。新垣さん。仕事柄、俺は動けるんで、遠慮しないでいつでもどこでも、連絡ください』



もう連絡しないって、そう思ってた。
でも、そう言ってもらえることで本当に安心したんだ。

午前中の空との時間は、ストレスになっていて、それは誰にも頼ることのできないふたりきりの時間だった。



先生には、頼れない。
平日の午前中。
先生は、教師だもん。


昼休みの時間になるとほっとする。
やっと、連絡できるって……



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