白いジャージリターンズ~先生と私と空~
背中に冷たい視線を感じながら、荷物をまとめ、空とコーチが話しているベンチへと向かう。
「おっつかれ~」
と背中に聞こえた声に、返事をすることができなかった。
「ママ、僕もっとサッカーがしたい」
空は、私の姿を見ると真っ先にそう言った。
「すいません。ちょっと空にも話してしまいました。育成コースになれば、土日に試合が入ってくるので、もっともっとサッカーする時間が増えますし、空のやる気とご家族の気持ちもありますので、焦らずに考えてみてください」
直視できないまま、私は小さく頷いた。
「新垣さん、何かありました?もしかして……」
高田コーチの視線が、他のママ軍団へと向いた。
「みんな自分の子供がかわいくて、うまくなって欲しいって思ってるだけなんですけどねぇ。トラブルは絶えないです。これは、女の世界だからですかね?子供同士はそんなことないのに」
ため息をついた高田コーチは、他のママが帰るのを確認してから私をベンチに座るように言ってくれた。
「空への嫉妬でしょう。誰が見ても、この年齢の中では空がうまい。でも、それって空の努力なんですよ。生まれながらの才能もあるかもしれませんが、空は僕の話をちゃんと聞いてる。言ったことをちゃんと聞いて、それをしっかり練習できる子なんですよ。だからね、伸びるんですけど」
空が褒められるとやっぱり嬉しくて、さっきまでのモヤモヤした気持ちがなくなっていくようだった。
「お母さん同士のゴタゴタも大変なんで、ぜひコースの変更考えてみてください。育成コースにも嫉妬とかありますけど、レベルがみんな高いので、お母さん達もしっかりしてる気がします」
「すいません。母親同士のゴタゴタの心配までしてもらって……」
空は、ボールを蹴りながら時々私を見ていた。
「よくあるんですよ。僕が言うのも変ですけど、僕に気に入られようとするお母さんだっていますしね。それが子供にプラスになればと思ってのことだと思うんですけど、そういうのじゃないから。子供の習い事なのに、すっかり主役が母親になってしまってる人もいます」
「私も、それは感じます。私自身もそうですけど、息子のためのサッカーなのにって思うことがあります」
「新垣さんは、目をつけられやすいかもしれない。僕もこの仕事をしていて何となくわかるんですよ。若くて幸せそうなママって、嫉妬されちゃうんですよ。それだけでね。そのうえ、空がうまいから……」