白いジャージリターンズ~先生と私と空~
私の中に残る小さな後悔。

ゆかりに渡してしまった赤ちゃん用靴下。

誰もが妊娠できるわけじゃないのに、子作りをしていると聞いて

靴下を渡した。


「ゆかり、ごめんね。赤ちゃんずっと欲しかったんだよね」

「まだ気にしてるの?靴下のこと」

ゆかりはケラケラと笑って、手を伸ばして私の頭をコツンと叩いた。

「だって、本当に後悔してて。妊娠って奇跡だもん」

「だよね。妊娠しても生まれるまではわからないけど、この子は大丈夫って変なんだけど、自信があるの」


まだ妊娠しているとわからないほっそりした体のゆかり。

でも、そのキラキラした力強い瞳を見ていると、もう母なんだと思った。


「体、大事にしてね。ストレスもためないでね」

「うん、それは大丈夫。私は直みたいに優しくないからね。たっくんに全部ぶつけてるよ」


ゆかりの幸せな話を聞いて、私の悩みがちっぽけなように感じた。

いつも、そうだったね。

高校時代、こうしてここでドーナツを食べて……


「昔に戻ったみたいだよね」

ゆかりも同じことを思っていた。


「ドーナツの味も、同じだね」

「大人になったはずなのに、私も直も心の中は昔のままだよね」

「いつも、ここでゆかりに相談してたな~」


泣きそうな気持ちをゆかりはいつも消してくれた。

足をポンポンぶつけて。

氷をストローでツンツンして……


「直は、不器用だから。空と、先生をふたり愛してることが大変なんだよ。余裕がないんじゃないかな」

「そうかもしれない。頭がごちゃごちゃすることがある。奥さんとしての自分と母としての自分、考えることがいっぱいあって」

「サッカークラブも、ママ友大変って言ってたもんねぇ」


ママ友達との付き合いは、本当に疲れちゃうことが多い。


「こうして、たまにゆかりに会わなきゃ、人間関係疲れちゃうの」

「私、ママになって、そういうのできるかな~」

「いいママもたくさんいるんだけどね。グループになるとなんだか怖い」


ふと、高田コーチのことを思い出すと同時にゆかりが言った。


「あのイケメンコーチは?」

私は、ドーナツを慌てて飲み込み、ミルクティーで流し込んだ。


「ちょっと先生に似てるところもあるんだよね。でも、コーチっていうだけで、別に何もないんだけど……他のママの中には、狙ってたりするママもいて」

「怖い世界だなぁ~。直若いから嫉妬されてんだよね」

「嫉妬されるようなこと何もないんだけど……空もサッカーうまいし、旦那さんかっこいいし、嫉妬されちゃうのかな」


あの冷たい視線は忘れることができなかった。

ママグループからどんな陰口を言われてるんだろう。


「ほっときな!直の家族に関係ない人達だよ!嫉妬するのは暇なんだよ」

「ありがとね。今は落ち着いてる。空、上手な子が入るクラスに入ることになってね」

「すごい!!さすがだね」



高校時代は週末以外は毎日こうして話していた。

今は、お互いに時間がなくて、ゆっくり話す時間がない。


それがストレスの原因だなって思うくらい、癒される時間だった。


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