白いジャージリターンズ~先生と私と空~


空とコーチの練習を見守っていると、声をかけられた。


「新しくこのクラス入られるんですか?」


私より年上だと思うけど、とても若くてきれいな人。


「はい。よろしくお願いします」


「息子からさっき聞いたんですけど、骨折してるって」


心配そうに空の方を見たそのママは、とても穏やかな話し方でお上品で……

前のクラスにはいないタイプの人だった。



「幼稚園の遊具から落ちちゃって」


「小さい子は回復も早いですから、すぐに骨はくっつきますよ。うちもお兄ちゃんが3歳の頃に腕を骨折したんですけど、早く治りましたよ。今ではそんなこと忘れちゃうくらい、痛みも何もないです」


「そうなんですか!ありがとうございます。仕方がないってわかってるんですけど、いろいろ考えちゃって」


「それはそうですよ。特に一人目の子って心配ですよね。わかります」



空が入るクラスに半年前から所属している裕介君という男の子のママ。

上に小学生のお兄ちゃんがいて、裕介君は4歳。

お兄ちゃんがサッカーをしているのを見て、小さい頃からサッカーが好きなんだって。

男の子ふたりのママとは思えない穏やかな雰囲気で、話していてとても落ち着く人。



「何もわからないんで、いろいろ教えてもらえたら嬉しいです」


私がそう言うと、


「私で良ければ何でも聞いてください。まだ全然わからないんですけどね」

と、優しく答えてくれた。


私と裕介君のママが話していることに気付いた高田コーチが、嬉しそうに微笑んでいた。




「ママ~、用意できた」


裕介君が近づいてくる。
4歳とは思えないしっかりした骨太な体型に、坊主頭が印象的な子。



「裕介、空君ってあの子だよ」


裕介君は、ヘディングをしている空に近づいて、その輪の中に入った。


「このクラスはレベル高いんですよね」


「裕介は、お兄ちゃんと練習してたから、前のクラスじゃ物足りなくて。高田コーチが声をかけてくれたんだけど、こっちに来てから上達も早いし、全然違うんですよ」


「そうなんですね。私も今日見学していて全然違うなって思ったんです」



それは、見ているお母さん達の雰囲気も含めて。




「幼稚園児のサッカーなんて、遊びだって思ってる人も多いですからね」


「やっぱり、そうですよね。このクラスは雰囲気が真剣で、びっくりしました」


「真剣にサッカー選手を目指してる子がここにはたくさんいて、その中で練習してるから刺激もあるみたい」



裕介君と空がふたりでヘディングをしていて、それを高田コーチは腕組みをしながら見ていた。



一瞬で仲良くなっちゃう子供ってすごいなぁ。
嬉しそうに笑っている空、なんだか、ほっとする。




「早く治って、一緒にサッカーしようね」


裕介君は、棒読みでそう言って、みんなが笑った。

空は、みんながどうして笑っているのかわからずに、首をかしげていた。




落書きだらけのギプスもあと1週間。

頑張れ、空。



< 99 / 173 >

この作品をシェア

pagetop