残念御曹司の恋
「失礼だよな。会いたいって言ったのは向こうの方なのに。」

そう言いながら男はため息を落とす。

「今日の相手はモデルだっけ？友達の紹介って言っても、そんなに期待してたわけじゃないんでしょ？」

「まあ、何となく興味本位だってのは分かったけど。」

どうやら、大学時代の友達から「お前に会ってみたいって言ってる知り合いのモデルがいる」と聞かされて、会ってみたところ、相手の反応が大変失礼だったということらしい。

「まあ、世界のクマザワの御曹司と聞けば一度は会ってみたいかもね。」

「おれって、何なの？そんな、がっかりされるほどの容姿か？」

男は上半身を起こして、窓に映る自分の姿を見つめる。

「まあ、肩書きに過剰に期待されちゃうだけだよ。」

私は、そんな男の肩に手をぽんっと置いて、明るく言った。



この、窓に映る自分を見つめて、小さくため息をついているこの男こそ。

日本有数の工作機械メーカー
熊澤精機の御曹司にして
若干28歳で営業本部長を務める
熊澤竣（くまざわしゅん）
その人である。

人は彼のことを陰でこう呼ぶ。
『残念御曹司』と。
< 4 / 155 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop