残念御曹司の恋
タクシーを降りると、すでに辺りは薄暗かった。
この場所を訪れるのは、何回目だろう。

ほぼ毎回、トランクから降ろされるスーツケース。
出張帰りの疲れた体でそれを受け取る。
今回は、時差ボケがない分、まだマシな方だ。

それでも、心だけは自然と弾む。
疲れなんて、きっと数分後にはどこかへ行ってしまうだろう。

俺はインターフォンを押す。
待ちきれなくて、ドアのノブに手を掛けた。

やがて、鍵を開ける音がする。
ドアノブを回して、勢いよくドアを開いた。

「きゃっ!」

ドアの向こう側には驚いた顔の愛おしい彼女。
ドアが開くと思って居なかったのだろう。ノブに手を掛けたまま前に倒れ込むようにバランスを崩す。

「おっと。」

慌てて彼女を支えると、そのまぎゅっと抱きしめた。

「ちょっ…ここ玄関先…」

慌てる彼女が可愛くて、思わず笑みがこぼれる。
顔を赤らめて俺を見上げる彼女に、いつもの挨拶をする。

「司紗、ただいま。」

「…いらっゃい。」

彼女は軽く俺の肩を押して、抱擁を解くと、俺を部屋の中へと招き入れた。
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