残念御曹司の恋

大安吉日。
玄関のドアを開ければ澄み切った青空が広がっていた。
五月は新緑の頃、一年で一番気持ちがいい季節だ。

両親はすでに朝早くに出ていったため、私は一通り戸締まりの確認をすると、荷物を抱えて一人で家を出た。

徒歩圏内にある行きつけの美容院で、ヘアメイクと着付けをしてもらう。
この振袖に袖を通すのは成人式以来初めてで、きっとこれが最後だ。
きっちりと着付けてもらって、鏡に映る自分を見る。
姉と私、二人で兼用していた振袖。
結局、私が面倒くさがって成人式の時にしか着用しなかったそれを、姉は友人の結婚式の度に着ていたと思う。

濃緑とクリーム色のグラデーションの上に松竹梅が描かれたそれは、まさに今日にぴったりだ。
上機嫌で用意を済ませたところで、スマホがブルブルと着信を知らせた。

美容院を出て、周りをキョロキョロすれば、道路の反対車線に停まった車が目に入る。
窓から手を振るのは。

私の恋人ー

もとい

婚約者の、修司だ。
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