彼があたしを抱くとき

私の背後の薄暗い室内で、
母が祖父に何かを言われている。

視線は庭先にありながら、
心では祖父母と、
その前に正座した母の姿を凝視していた。

やがて、静かな気配が十二の年の私の背中へ近づく。

ふりむくと母が立っていた。

あたしの頭の中には、
何の考えもなかった。

ただ、母を見上げ放心したように立っている異常な…一種の妖気にたじろいだちょうどその時、
母に縁先から蹴落とされ、
驚きと事態の思いがけなさにふるえるあたしの上に、


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