極甘上司に愛されてます


「もともと私は、夕陽新聞のビジネス部門に在籍していたのですが、出世していくにつれてどうも上層部とのソリが合わなくなってきてしまって……そのことを、前から親交のあった社長に相談したことがあったんです。それを覚えて下さっていた社長が、今回声を掛けてくださって、今回こういった配置に」


へえ……夕陽新聞。って、全国版じゃない!

そこで出世コースに乗っていたのに、こんな小さな会社の専務“代理”になるなんて、ちょっと変わった人……なのかな。

そんなことをぼんやり考えていると、社長が石神さんの背中をポンと叩いて言う。


「石神くんは、向上心のある男だ。専務代理とはいえ、必ず我が社をいい方向に導いてくれるだろう」

「……ご期待に応えられるよう、全力を尽くします」


石神さんの返事にウンウン、と満足げに頷いた社長は、最後に編集長と営業部長に対し、これからの指示を出した。


「それでは、とりあえず男性陣は下の瓦礫の片づけ、女性の皆さんには関係各所への連絡等をお願いするということで。その後の動きは、きみたちに任せます」


わかりました、と頭を下げる二人。それを見届けると、社長はオフィスから出て行く。

やっと肩の力が抜ける……と思いたいところだけれど、なぜだか専務代理の石神さんは、一向に出て行く気配がない。

それを不思議に思っていると、彼は涼しげな顔で部屋全体を見渡し、こんな言葉を口にした。


「編集部と営業部のみなさん。これから、いくつか私の言う通りにしていただきたいことがあるんですが」


……な、なんか。社長のいるときと、表情が変わったような。

さっきまでにこやかだったのに、急に温度がなくなったというか……


< 138 / 264 >

この作品をシェア

pagetop