極甘上司に愛されてます


「……まあとにかく」


コーヒーのいい香りを漂わせながら、編集長が一歩私に近付く。

そして、空いている方の手を私の頭の上に置くと、ため息混じりに言った。


「しばらく、恋人らしくするのは自粛だな」

「……しばらくって……どれくらいですか?」

「……そんな顔するな。実は今日これから、社長と専務と俺と営業部長で飲みに行かされるらしいんだ。そこで、専務の考えをちゃんと聞いてみるつもりだから」


大丈夫かな……なんとなくだけど、専務って編集長のこと目の敵にしているような印象だったから、素直に自分の思っていることを話してくれるかどうか……それに、話したところで状況が改善する気は全くしないし。

……もし。もしもだよ。

このまま、編集長と私は上司と部下としてしか接することができない時期が長く続いたとしたら、編集長の気持ちが離れて行ってしまうってことはない……?

だって、渡部くんがそうだった。

知らない間に“別れている”ことになっていて、でもキープみたいなことだけされていて。

会えない恋人はいつか飽きられて、他の女の人がよくなっちゃう……

男の人がみんなそういう性質なんだとしたら、私、またあんな思いをするかもしれないの……?


「北見」


浮かない表情の私を見て、優しく名前を呼んでくれる編集長。

だけど……どうして今日は“亜子”じゃないの?って、わがままな思いに心をつつかれて、素直に顔を上げることができない。


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