極甘上司に愛されてます


落ち込み気味だった気分がちょっと浮上したところで、気に入ったドレスも見つかり早速着替えた私。

その姿で佐藤さんの前に立ち、くるりと回ってみせると「意外とイケそうだね」とかなり失礼な褒められ方をされ、写真を数枚撮ってもらった。

彼は予告通り携帯でも写真を撮り、すぐさま編集長にメールしていた。

……どんな反応が返って来るだろうとドキドキしたけれど、取材中に返事が来ることはなく、ちょっとがっかりしたのは心の中だけにして。

とりあえず、ブライダル特集の取材は、最終日の今日も問題なく終えることができた。


会社に戻ると、事故のあった翌日から一階部分の修理にあたっている工事業者が壊れたところをせっせと直している姿を横目に、階段を上って二階へ行く。

そして編集部に入り自分のデスクに荷物を置くと、隣の先輩が小声で話しかけてきた。


「……編集長に、変な女の客が来てるよ」


いちおう私語禁止令を気にしているのか、それだけ告げるとすぐ机に向き直る先輩。

変な来客……? なんだろう。そんな風に言われると、気になるんですけど。

って、そのことをわざわざ私に教えるってことは、この先輩にも私と編集長の関係はばれているわけで……

もしかして、編集部は全員知ってたりするのかな……だとしたら恥ずかしい。


――給湯室の奥にある、応接室。

来客がある場合はいつもそこに通すはず……と、そろりそろりと廊下に出てみると、ちょうど目的の扉が開いたので、私は慌てて給湯室に隠れた。

声を押し殺すと、近づいてくる二人分の足音が聞こえる。

たぶん、編集長と例のお客さん……そう見当をつけ、二人がこの部屋の前を通り過ぎるのを待った。


< 155 / 264 >

この作品をシェア

pagetop