極甘上司に愛されてます


「何食べたい? 昨日買い物に行ったばっかりだから、いつものレパートリーはだいたいできるよ」

「じゃあ……肉じゃがで」

「了解」


1DK小さな家の中。

キッチンの後ろにある居間スペースに慣れた様子で胡坐をかく渡部くんのリクエストに応えようと、私はエプロンをつけてシンクの前に立った。

こういう新婚っぽい雰囲気をたまらなく幸せに感じる私は、彼に背を向けているのをいいことに、ちょっとにやけながらお米をとぎはじめる。

もともと料理は苦手だったんだけど、渡部くんと付き合い始めてから、好きな人のために作るのは楽しいものだと思えるようになり、同時に腕も上がった。


「亜子」

「んー?」


手についたお米をぱらぱらと釜の中に落として、最後の水加減を調節していると、ふいに背中にぴったりとくっついた熱。

ドキ、と胸が鳴って振り返ろうとすると、お腹に腕が回されて、耳に渡部くんの唇が触れた。


「……どうしたの?」

「やっぱり俺、できないわ」

「できない……?」

「うん。……さっきの、“大事な話”ってやつ、忘れて?」


え……? どうして……

聞き返したいのに、耳にかかる吐息が熱を帯びてきたのを感じて、胸の高鳴りだけが私を占領していく。


< 17 / 264 >

この作品をシェア

pagetop