極甘上司に愛されてます


見上げた先の彼は、とぼけているのか本当に言っていないのか、特に表情を変えることなく私に言う。


「……さあな。それより店の近くに戻って、アイツらが出てくるの待とう」


……そうだった。今まさにその疑惑を確かめようとしているんだ、私は。


「……はい」


二人でここに残った理由はただひとつ。渡部くんの潔白を証明するため。

私たちは事件の捜査をする刑事のように、物陰に隠れて渡部くんたちが店から出てくるのを待った。


「……なかなか来ないな」

「来ないですね……」


三十分ほど待っても彼らが現れる気配はなく、飲み過ぎたお酒のせいか、少し眠気をもよおしてきた。
口に手を当てて欠伸をすると、編集長が鼻で微かに笑う。


「眠いのか」

「……大丈夫です」

「おぶってやろうか?」

「え! け、結構です子供じゃないんですから……」


変なこと言わないで下さい……今ので眠気が覚めたけど。

ふるふると小刻みに頭を振ってから再びお店の入り口を凝視すると、ちょうど二人組の人影が出てきたところで、私は息を呑んだ。


「……あれ、ですね」


暗さのせいでハッキリと顔は見えないけれど、自分の彼氏を見間違うわけがない。

見間違う、わけが……ない。

信じたいと願う私の心とは裏腹に、渡部くんはしたたかに酔った様子で歩き出すと、すぐに隣の女性――和田さんの腰に手を当てた。

二つのシルエットが誰だか知らなければ、普通の恋人同士に見えたことだろう。


ねえ……恋人同士じゃない二人が、そんなにくっついてどこへ行くの?


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