極甘上司に愛されてます


ドキン、と心臓が大きく跳ねる。けれど、よく考えると全然つじつまが合わない。

……星を見る私が綺麗だからキスした?

そんなのただのキス魔じゃない。
キレイだと思った人全員にキスするんですかあなたは。


「……よく意味が」

「ああ。わからなくていい……今はまだ」

「今は?」


意味深に付け足された言葉が引っ掛かり、思わず聞き返す。

けれど編集長はそれには答えず、曖昧な笑みだけを残してまた建物の方へ歩いて行ってしまった。

なんなの……? 今は――ってことは、そのうち教えてくれるの?

モヤモヤとした思いを抱えて大きな背中を睨んでみるけれど、彼はそれには気が付いてない様子で、会社玄関の脇につけられた暗証番号のボタンを押している。

扉のロックを外すことのできるその番号は、編集長と営業部長、それから専務と社長しか知らない。


「――開いたぞ」


つまり、一般社員である私は、編集長が一緒でなければ休日のこんな時間に会社に入ることはできなかったわけで……そこだけは、感謝をしなければいけないところ。


「北見、早く来い」


いや……そこだけじゃないか。

自分の恋人の裏切りを知ることができたのも。

それを知って、泣かないで立っていられる今の自分があるのも。

冷たい風が吹いたって、寒さを感じないのも……全部、彼のおかげ。

ぎゅ、とジャンパーの袖を掴むと私は小走りで編集長の元へ駆け寄り、何か言おうと言葉を探す。

「ありがとうございます」――って言ったらキスのお礼みたいになってしまうから、それはダメだ。

じゃあ何て言ったら……?


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