キミの瞳に恋してる ~運命の人は鬼上司!?~


「おはよう、はっちゃん。最近早いね」

「おはよう。なんか早く目が覚めちゃって……」

「なにおばあちゃんみたいなこと言ってるの」


中性的な優しい顔で笑いながら、長井くんは荷物を置き、ガラスクリーナーを持ってショーケースの前に座った。

長井くんには、まだ店長とつきあっているってことを言っていない。

どうやって報告していいのかわからないし、矢崎店長も社内の人間には秘密にしておこうと言われているから。

たしかに、社内恋愛って、周囲に知られると仕事がしにくそうだもんね。

当たり障りのない会話をしながら掃除をしていると、矢崎店長が二階から降りてきた。その少しあとに、杉田さんが出勤。


そうして今日も、誰にも私と店長の関係は知られることなく、平和に終わる……はずだったのだけど。


お昼の1時頃になり、一人のお客様が入店してきた。

私は別のお客様を接客中だったので、視線だけそちらに送り、「いらっしゃいませ」と声掛けをして、ぎくりとする。

入ってきたのは、巻いた長い黒髪をぶるんぶるん揺らす女の人。

色白で、厚い唇がセクシーな、綺麗なひとだ。

私は咄嗟に彼女に背を向けた。

だって、一歩間違えるとゴミ出しのおばあちゃんになってしまう流行のガウチョパンツを見事に着こなしているその人は……。

この前競合店調査で会った、大久保菜穂さんその人だったから。



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