サイレント
その日から本当に父は家で暮らし始めた。
母はまるで父を無視するように、けれどしっかりと父の分の食事を作りながら毎日パートの仕事へ出掛けて行き、父は普通に母に話しかけ、弟とゲームをしたりして電車で仕事へ通っていた。

それは春休みに入ってからも変わらなかった。

「なあー。春休みだけど金城先生学校来てんのかなあ」

部活が終わってグラウンド整備をしている後輩達を見つめながら相沢がため息混じりに言った。
その顔はわかりやすく憂鬱さを滲ませていた。

「さあ。気になるなら行ってみたら?」

「イチは気にならないわけ?俺ずっと先生の泣き顔が頭から離れなくて、勉強も手につかねえ」

「普段から勉強してないだろ」

一は欝陶しい相沢を冷たく突き放すように言いながらも、帰る前に保健室を覗きに行くのに付き合った。

一自身も春休みに入って樹里に会えず、気になっていた。

それと言うのも父が一々一の行動に口出しをしてくるようになったからだった。弟や母に一の帰宅時間を確認したり、今日はどこで何をしていたかと事細かに聞いてきたり。

常に見張られているようで、転校や家のことについて樹里とゆっくり話すことも出来ないままだ。
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