サイレント

one

こんな時間にファミレスへ入るのはどれほどぶりのことだろう、と陽平は考えた。

それもこんなに自分より若い子と。

陽平は烏龍茶をストローで吸い上げながら、目の前の樹里を見つめた。

樹里は皿の上のポテトを一本ずつフォークで刺して口へ運ぶ。
ケチャップはつけずにそのまま食べるのが好きなようだった。

落ち着いたブラウンの長い髪の毛がふわりと揺れる。

「知ってると思うけど一応俺、結婚してるんだよね。だからあんなことは困る」

陽平はアパートの駐車場での樹里の行動をやんわりと指摘した。

「知ってます。でも、別居中だから少しくらいいいかな、って」

「だからこそマズイって言ってんですが。第一君、こんなオッサン趣味じゃないだろ」

「そんなことないですよ。私の好みの顔です」

「……確かに、息子と似てるとは言われる」

樹里はふん、と鼻で笑った。そんな嫌な女の笑い方なんてまるで似合わないくせに。

「つーか、一にも見られちまって……最悪」

「見せたんですよ」

樹里はポテトを完食すると水を一口飲んで短く息をついた。
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