サイレント

three

朝、目が覚めた瞬間から調子が悪かった。

怠さと、少しの目眩。

夏風邪は馬鹿が引くと言うけれど、実際夏に風邪を引くのは初めての体験だった。

「ちゃんと病院行って薬飲んで寝とけよ」

クールビズでノーネクタイ姿の親父はそう言ってさっさと仕事へと出かけて行った。

一は冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、一口だけ飲む。

気持ち悪いのに加えて空腹。食べなければますます気持ち悪くなるような気がしたが、食べたら食べたでまた気持ち悪くなりそうだった。

とりあえず油っこいものはパスということでご飯に梅干しをのせ、お茶漬けにして軽い朝食をとるとまたベッドに横になった。

病院に行けと言われても交通手段が自転車しかない一にとって、炎天下の道のりは地獄だ。

行って帰ってくるだけで熱が上がりそうだった。

一瞬樹里の病院が頭に浮かんだが、すぐに却下する。

もう来るなと言われている上に、親父からの忠告もあり、さすがの一も行けそうにない。
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