幼なじみが、先生で。


「……はっ、なんだよそれ………」


いつもより低い声で、芹澤くんは言う。

「意味わかんねぇよ……」


ポツリと言葉を零してから、1歩、また1歩とわたしの前を歩いていく。


雨がまた芹澤くんの身体を濡らして、思わず傘を向けたくなるのを必死に堪えた。



激しく降る雨の中、たった一度きりの芹澤くんの想いが落ちる。



「ーーーー有紗、大好きだったよ」



雨音に紛れた芹澤くんの大切な想い。

雨で流してしまうには勿体無いくらいの気持ちだ。


芹澤くんが必死で大切にしてきた恋。

神崎先生にも、もっと知ってほしかった。

芹澤くんがどれだけ神崎先生を想っていたか。

どれほど、好きだったのか。


わたしの隣で見てほしかったの。


ここから見える芹澤くんの後ろ姿はとても寂しそうで、つい抱きしめたくなってしまうほど。


でも、そんなことできるはずもなくて、グッと足に力を込めて気持ちを抑え続けた。


芹澤くんはこれからちゃんと前に進む。


それじゃあ、わたしは?

人の背中を押すだけで、自分は立ち止まったままでもいいのだろうか。



「大好き」が「大好きだったよ」と叫べるようになるのかな。


< 105 / 204 >

この作品をシェア

pagetop