君を好きな理由
溜め息混じりに近づくと、若干訝しげな視線が返ってくる。

「何ですか」

「いえ。隣を歩いてくれるのは、初めてなもので……」

「しょうがないじゃありませんか。私たちはどうせ余り物同士になりますから」

磯村さんと華子でしょ?
それから山本さんは彩菜ちゃんを呼び出したんでしょう?

そうなると、結果は見えているじゃないの。
さすがに私でも、恋人同士の間に割り込むのはどうかと思うわよ。
山本さんがまだフリーなら、それはそれで対応が変わっていたけれど。

「まぁ、今日は山本さんのお祝いと言う事なので、お付き合いしますよ」

「山本のお祝い?」

これまた訝しげな口調に葛西さんを見上げる。

「彩菜ちゃんと、6月に籍を入れると伺いましたが?」

「……それは初耳ですね。山本は聞かないと言わない場合が多くて困ります」

「山本、あの幼馴染みと所帯持つのか?」

後ろから声がして同時に振り返ると、磯村さん達も同じく後ろを振り返る。

「え。なんで、俺……注目浴びてんの?」

それは注目の人だからでしょう。

理由に気がついたのか、山本さんが眉をしかめて私たちを見回した。

「彩菜をからかうのはやめてね?」

あのね。

「祝うくらいは良いでしょうが」

「私たちもお祝いしてもらったもの。何かお祝いしなくちゃ」

私と華子で文句を言うと、山本さんが小さく笑った。

「真っ直ぐでいいねぇ」

「お前がひねくれ過ぎなんだよ」

磯村さんが山本さんの頭を叩いたところで彩菜ちゃんが合流した。

真っ先にお祝いを言う華子に彩菜ちゃんがしどろもどろに真っ赤になって、それから困って山本さんの陰に隠れる。

「可愛いわねー。ほんとに」

呟くと、頭上から葛西さんの冷静な礼儀正しい声が聞こえた。

「水瀬さんは、ある意味で素直ではないですから」

「…………」

ええ。そうでしょうとも。
こういう“素直”さは、もう遥か昔のことだと思うわよ。

「あら。私はある意味で素直です」

「ご謙遜を」

「根拠はなに」

「水瀬さん。言動は驚く程に乱雑ですか、優しいじゃないですか。そのくせ冷たくあしらう」

「乱雑……」

乱雑かしら。そうは思わないんだけど……冷たい、とはよく言われるわね。

「水瀬さんは不器用ですよね」

「不器用な訳が無いでしょうが! これでも外科医よ」

「そういう意味合いではありませんから。解っていながらそう言う所がすでに不器用です」

思わずイラッとして顔を上げると、笑いを含んだ視線と目があった。

……えーと?

もしかして、

「今のは冗談?」

「そう聞こえましたか?」

「聞こえるわけ無いでしょうが。なんなの貴方は」

「何なのと言われましても困りますが……水瀬さんに見上げられると気分が良いですね」

「や。よく解らないけど。身長差を考えたら当たり前のことじゃないの?」

私より、頭2つは高い葛西さん。

近くにいたら、首が少し疲れ……

「いつもはこんなに近い位置にいませんから」

それは確かだな。

「ただ、出来ればもっと近くにいて頂けると嬉しいです」

呆れた視線を返すと、もっと呆れた声が後ろからかかった。

「お前ら動かねぇと、俺ら店知らねぇから行けねぇんだけどな?」

それも確かだわ。
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