君を好きな理由
それから彼らを乗せたタクシーを黙って見送った葛西さんを見上げる。

「ホントにお酒、強いのねー」

見下ろされて、眉を上げられた。

「そうでもないです。これでも酔ってますよ?」

いやいや、全然酔った風には見えないんですけど。

思わず顔をしかめたら、風が通り抜けて髪を巻き上げる。


まだ完全な夏ではない季節。

夜の風は暖かくも冷たくもないから、少し酔った肌に心地よい。


「少し歩きましょうか」

言いながら歩き出すと、葛西さんは黙ってついてきた。


「葛西さんて、もしかして無口なの?」

「話は他二人に任せてますからね」

ああ、磯村さんと山本さんね。

確かにあの二人はよくしゃべるかも。

「あの二人とは長いの?」

「そうですね。大学からですから、10年以上になりますね」

「10年か。短くはないわね」

「そうですね。しかし、水瀬さんたち程ではありません」

「私達は小学生からだもの。そんな長い人は……ああ、山本さんたちがそうかも」

「あれはまた特殊ですよ」

幼馴染みじゃねえ?

「どんどん回りが結婚していきます」

「そうね。山本さん達が一番早いのかな?」

「式は6月にするそうです。磯村たちは式はしないそうで」

式場の結婚式は華子には無理ね。

あの子は強迫観念の強い潔癖症だし。
だいぶ変わったけれど、それは未だに磯村さん以外には発揮されているし。

「はるかさんは……そういった事は考えませんか?」

「結婚? 医者の結婚は晩婚なのよ」

「一般論ではなく、はるかさん自身ではどう考えていらっしゃいますか。恋愛結婚をお考えですか?」

「突っ込んでくるわねー」

「まぁ……」

お互い適齢期だしね。

でも、結婚ってタイミングじゃないのかしら。


「今はまだ……とか、考えているでしょう?」


今は……と、言うよりも。

そう言った意味合いで、恋愛ができるのかしらね。

さて……どうやって当たり障りなく、この質問をかわせるかな。

結婚……

結婚ねえ……?

「結婚はゴールじゃないわよ」

「男からすると墓場だそうで」

「いきなり一般論で返したわね?」

「お互い様でしょう」

真面目な顔で顔を見合わせて、それからお互いに肩を竦めた。
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