君を好きな理由
「とりあえず、私は私でいるだけで、何がどうして私なのか全然解らないわよ」

ここ最近の傾向を考えると、あそこまでハッキリと意思表示してくる人も希だと思うし。

普通の神経の持ち主じゃないなあって、少し感心もするんだけど。

「そうなんですか? でも、接点なんてありませんでしたよね」

「同じ会社の人間だし、全く無かったわけでもないわよ」

そもそも、顧問のお供は必ず葛西さんだったし。

「え。私は他の部署の方は、あまり存じ上げませんが……」

「…………え」


……もしかして、なんだけど。


「貴女、私が1日中ここに座っていると思っているの?」

「違うんですか?」

「そりゃ全体回るのは月に1回か2回くらいだけどさぁ……」

頭を抱えそうになってやめた。

たまにはまわりをよく見ましょうよ。

こう見えて、けっこうハードなのよ、お嬢ちゃん。
給料に見合うだけの仕事はしますよ、お姉さんも。

もう、何て言うか、力がでないよ。


「そ、それは、すみませんでした!」

「お?」

「病院みたいに待ってるだけかと思ってました」

「や。まぁ、それもあるけどね。医務室に私いないと意味ないし」

案外素直だな。


思った瞬間、ドアが開いた。


「ああ……やはり……」

ドアを開けたのは、がっかりしてる葛西さんで、さすがの観月さんは青くなって目を見開いている。

「水瀬さん。この時間帯は見回りの時間では?」

「あー……うん。まぁ、カウンセリングも大事な仕事よ」

「観月さんのカウンセリングですか?」

「そういう意味だけど。聞こえなかった?」

「……人が良いですねぇ」

「私はお人好しにはならないわよ」

「お人好しとは言ってません。観月さん」

葛西さんがちらりと観月さんを見て、それから目を細めた。

「そろそろ役員会議が始まります」

「え。あ! すみません。すぐ戻りま……」

観月さんはますます青い顔になって、慌てて立ち上がろうとするから肩をつかむ。

「え? あの?」

「お口あーん?」

「え。は……」

ぽいっと観月さんの口にキャラメルを投げ込んでにんまりする。

「はい。深呼吸~」

訳もわからず深呼吸をする観月さんから手を離し、

「いってらっしゃい」

「……ありがとうございます?」

なんだか不思議そうな表情で観月さんは医務室から出ていった。
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