君を好きな理由
でも、久しぶりの社外は嬉しいな。

確かに昼休憩中は外出中の札をかけているけど、唐突に飛び込みがきて診察って事もある。

同じ医務室でって、なんだか仕事中にご飯食べてるみたいで落ち着かないし。

まぁ。社外に出ても、呼び出しがある時はあるんだけれどね。

プラスチックプレートに連絡先を記入して顔を上げる。

「どこにいこうか?」

「最近、清潔なお店をみつけたの」

華子のお店選びの基準は“清潔性”よね。

「美味しい?」

「うん。パスタが美味しい」

「磯村チョイス?」

「まぁね」

仲がよろしい事で。

でも、当然の様に言えるようになれば進歩よね。

飲食店もろくに入れなかった華子だし。
入っても、ちょっとした汚れを見つけた瞬間に食べくなるような子でもあるから、滅多に外食なんて誘わない。

だいぶ改善されたよね。

磯村さんの色々な荒療治が良かったのかしら。


やたらとスタイリッシュなパスタ専門店に入り、まじまじと華子を見ていたら苦笑された。

「どうかした?」

「いや。変わったなぁと思って」

「そんなに変わってないわよ。相変わらずだわ」

すっとラミネートされたメニューをウェットティッシュで拭き取る華子に頷いた。

「そこは変わってない」

「人間、そんなにすぐに変われるなら苦労はないわよ。何を食べる?」

「私トマトソース系が食べたいな」

「じゃ、私はさっぱり系にしよ」

それぞれ注文して、店内を見回した。

「……男の人がくるようなお店じゃないわね」

「そうね。義理のお姉さんに聞いたみたい」

「義理の? 兄弟いるんだ」

「何度か会ったことがあるわ。私より酷い潔癖症の持ち主だったみたい」

「あんたより? それは……難儀ね」

「だから、どうして克服したのか聞いてみたら……」

「聞いてみたら?」

「子供が出来たら、それどころじゃなくて、掃除しなくても死なないんだって思ったって」

真剣に話す華子に、思わず吹き出した。

確かに、赤ちゃんできたらそれどころじゃないよね。
つわりがどの程度になるかにもよるけれど、産むときには一人でって訳にはいかないし、もちろん磯村さんが赤ちゃんを取り上げるなんて無理だろう。
生まれてからは毎日のおむつ交換に、華子が赤ちゃんの食料になる日が来る。

大きくなったら部屋を散らかすのが仕事になりそうだし……


「今後の事も考えておかないと」

「幸せそうな悩みねぇ」

「水瀬はどうなのよ」

「どうって……」

「山本さんが、葛西さんの部屋に水瀬を置いてきたって聞いたから、少しビックリしたの」

ああ……うん。置いていかれたよね。

まぁ、子供でもないんだから、それが死活問題になるわけじゃないし。

ある意味で葛西さんは紳士だったわ。

「しばらく男の人はいらないんだけどって言ってるんだけど」

「通じる?」

「通じない。そういう部分は聞き流すようにしてるみたい」

まぁ、でも思っていたより楽しい人よね。


「でも水瀬は、彼氏が途切れた事もないじゃない」

「人の事を尻軽みたいにいわないでくれない?」

思いきり睨むと、真面目な顔で頷かれた。
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