君を好きな理由
「私も正直に話すから、葛西さんも正直に答えてね?」

珈琲カップを持上げ、葛西さんは眼鏡を直して頷いた。

「解りました」

「私は、自分の時間を大切にしたい人なのね。だから、好きだとか言われても付き合えないから困るの」

少しだけ目を丸くして、それから小さく首を傾げられる。

「本当に真っ正面からきましたね」

「そりゃそうよ。それとなくは言い続けてきてたもの」

「では、具体的にどう……自分の時間を大切にされてますか? 見たところ、はるかさんは基本的に寂しがりやだと思いますが」

「……私が寂しがりや?」

「誰かと同席した場合、話さなくてはいけないと思い気を使う。つまりは誰かと同席した場合、はるかさんはお話をしたいと言う裏返しでは?」

え。うーん。

そうかしら。

「本当の意味で一人になりたい時は、恐らく相手と話せないから、と言う理由でしょう?」

「大まかには。救急にいた時ほど、本当の意味で“時間がない”わけじゃないけど、勉強は続けたいから誰かとデートをしている暇はないのは確か」

「そこはクリアできます。基本的に俺は出掛けるよりは、家で本を読んでいる事の方が好きですから」

いや。自信満々にクリアされても困るんだけど。


「でも、会えないと男の人ってすぐに他の女走ったり、文句言ったり、タイミング合わなかったりするじゃない」

葛西さんは考える様な顔をして、それから腕を組んだ。

身体の前で腕を組む……と、言うことは、自己防衛心理の現れだけど。

お腹の上あたり、ということは、考えに集中してる……?


「えーと。会える時間が無いと、近くの人を求める心理は解らないわけじゃないわ。人間ってそういうものよ」

「いや。それもクリア出来そうです」

「はあ?」

「確かに俺も男なので、好いた相手が目の前にいたらキスをしたいし、抱き締めたいし、中に入りたいです」

「な……」


……びっくりする程赤裸々だわ。

「そ、そう?」

「ですが、それは“しなくてはいけない”という義務ではないでしょう。本能的なものですし……」

「ま、まぁ……」

「デートの定義から考えましょうか」

定義があるのか?

と言うか、どういうもの?

「外出するのもたまにはいいですが、デートは二人でいられる時間があればいいのだと思いますね」

「普通は外出するのが目的じゃない?」

「デートの目的はお互いを知るためでしょう? もしくは二人きりになりたいから」

「まぁ……」

「確かに学生デートは外出が多いですが、親に干渉されずにお互いを知ろうとすると必然的にそうなる。外の他人は干渉してきませんからね。普通」

まぁ、彼氏を実家に呼んだら、親はうるさいかもなぁ。
ある程度慣れてくるまでが大変かもしれない。

「俺とはるかさんの場合は、まったく会えないわけではありませんし、こんな感じでその他大勢の中の二人きりになれますし、未成年ではないので、家にいたとしても邪魔されません」

「お家デートってこと? 何だかそれって不思議。家でまったり二人で本を読んでて楽しい?」

「俺は楽しいです」

キラキラ笑顔を眺め、溜め息をついた。

「ひとつだけ解る事があるわ」

「何でしょう」

「私を論破しようとしてるでしょう」

「よくお解りで」

解らないわけはないでしょうよ。
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