君を好きな理由
考えていたら、ドアが少し開いた事に気がついた。

「……入ってきたらどう?」

「いや。痴話喧嘩は犬も食わないって言うだろ、女医さん」

ひょっこり磯村さんが顔を出し、後ろに困った顔の華子が見える。

「痴話喧嘩ですらないわよ。一方的に言われていただけだし」

「あんまり聞き流してっと、後で恐いぞ?」

呆れたような顔をして言われたから、ちょっと首を傾げる。

それは忠告かしら。

考えてみれば、磯村さんてちょいちょいキーポイント的な事を言ってくれてるよね。

それ以上は教えてくれないけど。

「余計なお世話です。磯村は伊原さんに集中していればいいんですよ」

博哉が冷たく言えば、磯村さんはニヤニヤしながらベッドに座る。

「いや。無理。女医さん華子の唯一の友達だし、こっちもなかなか落ち着いてくれねえ」

「……伊原さんは、人が良いんですね」

華子はとてもお人好しよ。

間違いないわ。

頷きながら、博哉の持っていた容器を覗き込んだ。


ちょっと食べたら美味しかった。まだ食べたい感じ。


ちらっと視線が合って、無言で林檎のコンポートと私を眺め……

口を開けたら、また一欠片入れてくれた。


うん。好きな味だわー。


「……はるかは、花より団子の人なんですね」

「今更? そんなに大量には食べられないけど、好きなものは好きよね」

「口に合って何よりです」

「うん。美味しい」

「それに貴女は、場を動かす事にもなれていらっしゃるようで」

溜め息混じりの言葉に視線をそよがせながら立ち上がった。

「とりあえず、お茶飲んで落ち着きなさいよ。取って置きのを淹れてあげるから」

と言っても、 ポットのお湯じゃ、微妙なセッティングは難しいけどね~。

よく解んないけど、今、博哉と磯村さんとでピリピリしてたのは解ったわ。

そういう場の雰囲気は、和ませるのが女の役目でしょ。

ホントに男っていくつになっても……


「やっぱり博哉って、子供っぽいって事なのね」

「なんですかそれは、俺が大人の男だと証明すればいいんですか。こんな真っ昼間から」

真っ昼間て。

「え。いや。しなくていいし。そんな意味じゃないし。馬鹿なの?」

「はるかがそんな事を言うからです」

「そうやってすぐに下ネタ走ると、おじさんて呼ぶわよ」

「まだ枯れてませんよ」

「だから……」

「お前ら何を低レベルな争いしてんだよ」

「どこかで見たようなコンビ芸ね」

やたらに冷静な磯村さんと華子の言葉に口を閉じた。

別にお笑いネタを披露しているつもりはないわよ。

「とりあえずお昼ごはんよね。今日は作ってないわ」

「作られても困ります」

……悪かったわね。粗末な物を食べさせて。

「今日は俺が作りましたから」

「うわ。嫌味! どうせ私は作れませんよ!」

「はるかを食べさせるのが、何故か俺の使命のような気がしてきましたから、気にしないでください」


それはまた、けったいな使命感デスネ。
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