君を好きな理由
「幸いにも俺は次男坊なので、さほどまわりに贔屓されませんでしたから」

そうだな。

そっか。
博哉って、そういう意味合いではとても“坊っちゃん”らしくないな。

世界は広いけれど、広い世界の中の小さな日本。

日本の中の一企業。
会社の中の世界は広いようで狭い。

社長の息子に媚びてくる人もいるだろうし、現に“お婿さんナンバーワン”の理由も、根っこはそこが大きな理由になるだろうし。
そんな中にいたら、持ち上げられて天狗になっても、おかしくはない状態ではあるんだな。

「友人達にも助けられたのでしょう。利用されたり利用するのが当たり前になっていた頃、思いきり静かに馬鹿にされましたからね」

「……磯村さん?」

ちらっと目があって、微笑まれた。

「まぁ……そうです。それほど親しくもない時に、親が稼いだ金で、金に群がってくる女と遊んで何が楽しいのか……と、それはもう、真面目に聞かれました」

「……面白い友達だなぁ、それ」

吉田さんが爆笑して、それから首を傾げた。

「なら、お前さんは目が高いな」

「俺もそう思います」

「死んでも離すなよ?」

「そのつもりですが、まだ確実に選ばばれていない状態なので」

「愚痴なら付き合うぞ」

「お願いします」

何をお願いしたのかはさっぱりだけど、朝月さんまで加わって男同士で解り合っている……


「つまんなーい」

言うと、宥めるように頭を撫でられた。

「こういう時、可愛いんですけどね」

「悪かったわね。普段可愛くなくて」

「いいですよ、それで。俺はそういうはるかも好きですから」

す、好きとか、嫌いとか、そんなことは人前で言うことじゃない!

キッと睨むと、微笑みを返された。


微笑まれて、怒っていられる人は少ない。

あー……もう。どうにかしてください、この人。

確かに好きだと言われると嬉しいけど、嬉しいんだけどさ!
時と場所によっては嬉しくないし、迷惑なんだし。


それをどう心得ているのさ!


ともあれ、その後はずっと、おっさん二人にからかわれて過ごした。





「本当にあのお二方は、良い人ですよねぇ」

いいだけ飲んで騒いだ帰り道。
ほくほくと嬉しそうに言うから、博哉を見上げて首を傾げる。

「そうね。あの二人は人懐っこいと言うか……年の功って言うか。あまりいないタイプよね」

「……はるかも間違いなく、あのタイプですよ」

「ええ。あそこまで親父じゃないわ」

「そういう意味じゃないんですが」

言いつつ、博哉は私を見下ろした。

「……今日は持ち帰ってもいいようですね」

私の大きな荷物を眺めてニコニコする。


……聞かないで。
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