君を好きな理由
「荷物持ちましょうか?」

「いいわよ別に重くない」

こんなやり取りも日常化してきているけれど……

「荷物持ちたがるのは何故?」

博哉眼鏡を持ち上げ、私を見下ろす。

「俺は背が高いです」

「うん」

「ハイヒールを履いていないはるかは……とても小さく見えます」

今日は確かにローヒールだけどね。

「……チビじゃないわよ! 一応、女性の平均身長よりは背が高いわよ!」

「気分の問題です」

マイペースだなぁ。

それは解りかけてきた。

思って気がついた事を、思ったままに実行に移すのは秘書課の特徴かもしれないし、それは必須なのかも知れないけれど。
急に色んな事をされる身にもなってほしい。

いや、全く考えない訳じゃないみたいだけど、たまに報われていないし。

そんなことを思いながら今度は博哉の買い物に付き合い、タイピンとカフスを新調したら、そのお値段にぎょっとした。


男の人も大変だよね。


思いながら、スマホの振動音に気がついた。

画面を見てみると、知らないナンバーが表示されている。

「どうかしましたか?」

「うん? 何か知らない人から着信きてる」

「固定ですか?」

「ううん。携帯ナンバー」

「出てみては?」

「うん……」

と、出ようとしたところで切れた。


「かけ直すべき?」

「……全く知らない番号ですか?」

「うーん」

何となく見覚えがあるような気もするんだけど……

「知り合いの連絡先は登録してあるし……しないことはないわね」

最低限、こちらの連絡先を教えたら、登録するようにしているし。

仕事用のスマホなら、休憩時間には連絡先を置いていくから知らない番号からかかってくることもあるけど、そもそも仕事用のスマホじゃないし。

家族で連絡先替えたら、まずメールが来るし。

「ま、いいわ。用事があるなら、またかかってくるでしょ」

「いいんですか?」

「いいわよ。思い当たる番号じゃないし」

スマホをしまって、それから黙っている博哉を見上げる。

「それにこれもデートでしょう? なら、貴方に集中してあげる」

ニッコリと微笑むと、何故か不敵な微笑みを返された。

「……照れますね」

「あは。博哉でも照れる?」

……とても照れているようには見えないけど。

「俺以上に、はるかの方が照れている様ですが」

……顔が熱い自覚はあるわね。

「……そういうのは、言わぬが花ってことわざがあるのよ?」

「言ったもの勝ちではなく?」

「勝ちたいの?」

「いつも負けますから」

それはどうだろうな。

いつも負けていないと思うんだけど。
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