マサユメ~GoodNightBaby~
物々しい雰囲気に包まれる警視庁横の通りを通っていた歩行者が、不自然なほどのフラッシュの閃光と、カメラのシャッター音を聞いて立ち止まり振り返った。

「あ、おい出てきたぞ」

「おい、カメラ回せ」

「なにしてんだ行くぞ」

一斉に焚かれるフラッシュの弾幕に4,5の人物のシルエットが浮かんだ。絶え間なくシャッターが切られる中で一斉に深々と頭を下げる。時間にして5秒ほど深く下げた頭を微動だにさせず。

そしてゆっくりと頭を上げると、その中の一人がゆっくりと3歩前に出た。少年の聴取を担当し、この一連の事件を最前線で追っていた警視庁捜査一課の青柳警部補だ。

青柳は報道陣に詰め寄られ、畳み掛けるような質問の中で言葉を発することはなく、再び深く頭を下げた。

「警部補、その行為は自らの釈放の判断が誤っていたと認めているということで宜しいのですね?」

「犯人を捕り逃し、自殺を許すというこの最悪の顛末の責任をどう取られるおつもりですか?」

「何かおっしゃってください!」

「黙っていても何も変わらないのですよ、警部補!!」

青柳は罵声混じりの言葉の嵐に曝されながら、ただただ黙して頭を下げ続けるのであった。深く深く陳謝する態度を取り続ける彼の表情を撮ることができた者は居なかった。そして、終始彼の拳が強く握りしめられていたことに気が付いた者も居なかったのであった。

全てのテレビ局が既存の番組を差し替えて生放送で中継を写していたのだが、その中継の中で青柳が口を開くことはとうとう一度もなかった。

放送を見た世間の反応は始めの一週間こそ、少年の自殺や警察関係者の怠慢としてこの事件の話題が席巻したが、それも恐怖の終息と憤りが吐き出されたことによって次第になくなっていった。
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