アブラカタブラ!
 じりじりと日差しがきつくなってくる。
昼を回ったようだ。
木陰を探してみたが、すでに陣取られている。

モノレールの下にすら、シートが広げられている。
とりあえず、中央の休憩所に向かった。
屋根の一部からミストが吹き出している。

その下に入ることを息子がせがみだした。
橋でのミストでは物足りなかったのだろう。
キャッキャッと喜ぶ息子に、わたしも満足だった。

 と、ありがたいことに席が空いた。
すぐさま駆け寄り、何とか座ることができた。
「さあ、お弁当だぞ。ママのおにぎりは美味しいからな」

 子どもに言いながらも、このひと言が妻に言えぬ己が恨めしかった。
わたしに対して、なにがしかの不満を抱いていることは感じていた。
はっきりとした態度をとるわけではないが、日々の折々において険のある表情や言葉が飛んでくる。

朝の挨拶がなく食卓上には新聞がない。
帰宅時にはお帰りの声がなく、遅くなった折りには
「作ってないわよ」
と、皮肉の言葉をかけられる。
一、二度済ませて帰ったことを根に持たれているのだ。

 そもそもなにが原因なのか、まるで見当の付かないわたしだ。
息子が生まれた頃は仕事が忙しく、育児は任せきりだった。
あの頃のわたしといえば、土日の休日すら外出が多かった。

むろん休日出勤が多かったのも事実だ。
途中入社であるわたしには、率先して出勤せねばならぬ事情だったのだ。
即戦力としてのわたしを見せなければ、契約社員に留まってしまう。
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