アナザーワールド
ボブヘアーの少女。
この世界の事を何も知らず、魔法も使えないと言っていた。
少年は手を伸ばす。
伸ばした先には、何も無い。
ただ虚しく、手は空を掴んだだけ。
「……実亜」
少女の名は、実亜。
少年が慕い、仕える主と同じ顔を持つ少女。
彼女はこの世界とは違う、別の次元からやって来た、主と同じ魂を持つ少女。
少年は伸ばした手を下ろし、拳を握り締める。
何も無いはずのその手の中にある温もりを、逃しはしないとでもいうように。
少年は実亜を愛していた。
けれどそれは言葉に出す事すら叶わなかった。
次元の違う、住む世界も違う少女とは結ばれるどころか、気持ちを伝える事すら出来ず……ただ、心に、少女への想いを閉じ込めて。