いきぬきのひ
「あ〜、あのぉ〜、こ、これぇえええ〜!」
 悲鳴を引きずりながら、座席ごと曇り空へと放り出された。
 またしても、彼が隣で私の無様な雄叫び上げる様を見て、ゲラゲラと嗤っている。なんで、そんなに余裕なの? この人。
 上空、一番高いところで、ふいに機械の動きが止まった。
「へ?」
 またしてもマヌケな声を上げる私に、ニヤリ、と彼が笑った。
「軽ぅく入りますよ。無重力」
 彼の一言が終わると同時に。無重力どころか奈落の底へと、再び悲鳴と共に吸い込まれていく。風圧で足がスカートと一緒に舞い上がるが、為す術もない。
 あっという間に地面が迫って来たかと思うと、サスペンションの効いた車のように、案外ふわりと動きが止まった。
 と、思ったら。
「うぎゃあああああああっ!!」
 またしても、空へと引きずり上げられた。
 刹那、ふわりと躰が浮いたような感覚に囚われる。二度目の頂点で、やっと眼前に広がる景色を見る余裕ができた。
 どこまでも続く、ごちゃごちゃの町並み。
 その、制止した景色が一瞬で眼前から消え去ると、またしても、地面が迫りくる。
 夫も、こんな瞬間を見たのだろうか。
 突如。ガクリ、と頭が慣性の法則に流される。またしても、地面のかなり手前でふわりと止まった。
「さぁ、いよいよ、ラストーっ!」
 微妙に照れの入ったDJ風の放送が、耳に飛び込んできた。上に引き上げられながら、そっと、隣を見ると。瞬き一つせずに、地面を黙視する彼の横顔。
 彼の口元が、わずかに動いたけど。何をつぶやいたのかは、わからなかった。
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