あの日失くした星空に、君を映して。
漠然と思い出になるように、って思っていたけれど…
どうしたいか…か。
「普通がいいな」
考えるよりも先に口をついて出た。
4月にこの町に来てから今日まで続いてきた普通をその日まで続けたい。
ただそれだけだ。
「そっかぁ…そうやな」
うんうんと頷きながら風香が顔を綻ばせる。
「じゃあそれでいいんやない?てかさっきのチャイム最終下校のやろ?」
時計を仰ぎ見ながら深影が言う。
そういえばさっきチャイム鳴ってたな。
最終下校時刻まで残ったことなんてないんだけれど、もしこのまま教室に残ってたらどうなるんだろう。
ちょっと興味あるなぁ、なんて思っていたら、思い出したように美里さんが立ち上がった。
「最終下校過ぎたら山本が見回りに来るんよ、知ってた?」
え……山本先生?
「ちょ、それダメなやつやん!早く出よう、ほんっと山本先生無理!」
私と同じように学校を抜け出した時のことがトラウマになっているのか、風香が顔を真っ青にして立ち上がる。
工藤くんも体を縮めているあたり、深影とぶつかった時の山本先生の形相を思いだしたのかな。
あれは怖かった、声も大きいし、例えるなら般若みたいな。
何も気にしていないのは深影と美里さんだけ。
呑気にあくびをする深影の背中をペしっと叩いて、すぐに教室を出た。