きみがまだ隣にいたころ
プロローグ
懐かしい匂いがした。
昔住んでいた家の庭に生えていた夏ミカンと同じ香り。
たぶんこれは、君の髪の匂いなんだろう。最近、君はシャンプーを変えたといっていた。


「朝陽(あさひ)」


僕はすぐ隣にいる君の手を握り直す。


「どうしたの?」


すると、すぐに君の大きな瞳が僕の目を捉えた。
このまっすぐな目が好きで、君に惹かれたのだったと思いだす。


「朝陽のことを、僕は好きだよ」

「そういうこと言わない、雰囲気壊れるよ?」

「別にいいだろ、確認しただけ」

「変な空太(そらた)」


君は少し笑って、口では嫌そうに言いながらも僕の手を強く握り返した。
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