ジャンヌ・ダルクと女騎士

5月5日

 五月五日 木曜日。
 ジャンヌの初戦の翌日は、キリスト昇天(アサンシオン)の日だった。
 キリスト教の祝日は、イギリス・フランス両軍共に休戦日としていた為、戦闘は行われなかったが、その代わり、ジャンヌは最終勧告の手紙を送っていた。
『あなた達イギリス人は、このフランスに対して、いかなる権利も持っていません。天の王は私、乙女ジャンヌを通して、あなた達が要塞を放棄して国に帰るよう、命じておられます――(以下、略)』
 このような出だしで始まる手紙は、イエス、マリア、乙女ジャンヌの三人の名でサインをされて終わっていた。
 が、それを受け取ったイギリス軍は、愚かな少女の馬鹿な手紙と嘲り、神の名を語る者としてののしっていた。

 そして、翌六日、朝のミサに出席した後で、ジャンヌは出陣の準備をした。
「本当に行くのか? 先日の戦いで勝利したとはいえ、あれは、先発隊がいたからであって……」
「参ります。それが、私の使命ですから」
 そう言うジャンヌは微笑んでいたが、その両瞳(め)には強い意志が感じられた。
 それを見てとった指揮官ゴークールは、止めても無駄だと察し、黙って彼女に従うことにしたのだった。
「……いない?」
 ロワール川南岸のサン・ジャン・ル・ブランの砦に彼らが着いてみると、門は開け放たれたまま、火も少し前に消した跡があり、中には誰もいなかった。
「どうやら、ここを放棄したようだな」
 チラリとジャンヌを見ながらゴークールがそう言うと、彼女は何かを考えながら辺りを見回した。
「我らにもここを維持出来る程の余裕は無い。ここは一旦、引き揚げよう」
「それでよいのでしょうか?」
 そう尋ねたのは、ジャンヌだった。
「良いも何も、維持する為の兵力も食糧も無いというのに、無茶など出来まい?」
 ジャンヌよりずっと年上のゴークールが苦笑しながらそう言うと、彼女は首を横に振った。
「違うのです。そういう意味ではなくて、オルレアンから目と鼻の先のこのような砦を放りだすなど、おかしい気がして……」
「むこうも余力が無かったのだろう」
「そうでしょうか?」
 まだ文句ありげなジャンヌに、ゴークールはしかめっ面になった。
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