ジャンヌ・ダルクと女騎士

コンピエーニュ

「おそらく、パリに我々がむかっている最中に、陛下の御領地を手に入れ、それを理由に国王の座を追おうとされるだろう。私のことは、それから追放しても遅くはないと思われているはずだ」
「何と!」
「だからこそ、今は陛下と事を構えるべきではないのだよ、ヨウジイ。分かったかね?」
「はい……。私は、閣下のご命令に従うのみです」
「ははは。君の忠誠は、疑ったことがないよ」
 アルテュールはそう言うと、微笑んだ。
「そういえば、あの子はどうしている? まだオルレアンにいるのか?」
「お嬢様でございますか? いえ、先にパリに向かわれているはずです」
「そうか。無茶をせねばよいのだが……。念の為に追ってくれるか?」
「はっ!」
 ヨウジイは短くそう返事をすると、その場を後にした。
シャルルとブルゴーニュ派の一五日間の休戦の間、イギリス軍はフランス北部カレーに上陸した三五〇〇人の騎兵と弓兵の援軍を待っていた。
 この部隊は元々、フス派と呼ばれるキリスト教の異端の一派と戦う為にチェコに送られる予定だったのだが、急遽(きゅうきょ)パリに向かわされることになったのだった。
 その部隊とジャンヌ率いるフランス軍が対峙したのは、サンリスだったが、何故かジャンヌ達が挑発しても乗ってこず、シャルルはクレピーへ引き揚げ、イギリス軍のベッドフォード公は違う方向に向かったのだった。
 この時のシャルルの行動にも、ジャンヌやアランソン公達は苛立ったが、パリの北、コンピエーニュの時の方がもっと酷かった。

「サンドニに向かいましょう」
 いっこうにコンピエーニュから動こうとしないシャルルに業を煮やしたジャンヌがそう言うと、アランソン公達もそれに続いた。
 そして、シャルルにもサンドニに来るよう促したが、やっとのことで重い腰を上げてサンドニまで来ても、何故か目の前のパリに入ろうとはしなかった。
「私達だけでもパリに!」
 そのジャンヌの言葉を合図に、彼らは一四二九年九月八日、パリのサン・トル門を攻撃した。
「流石、パリは固いな」
 周囲が赤く染まるころ、アランソン公がそう言いながら周囲を見回した時だった。
「乙女、危ない!」
 そう叫んだ少年の声が聞こえたのは。
「乙女!?」
 アランソン公がそう叫びながら声のした方に行くと、一人の少年がその身を赤く染めて、ゆっくり倒れるのが見えた。
「いやぁっ、レーモンっ!」
 甲高い少女の悲痛な叫びも聞こえ、慌てて駆け寄ると、ジャンヌはその少年の背後――今は下にいた。彼がその身を盾にして、彼女を大弓の嵐から守ったのだと、一目で分かった。
「乙女!」
 まだ自分を庇って倒れた小姓レーモンの亡骸にすがりついて涙を流す彼女の肩にも、一本弓が刺さっていた。
< 125 / 222 >

この作品をシェア

pagetop